LOOK UP KYOTO 2004
2004.11.27 – 12.12
京都嵯峨芸術大学
映画の世界は、新しいデジタル・レコーディングと 視覚化の技術により根源的な変容を遂げつつあり、中でも特に高度な実体験型視聴覚体験の創造が注目されています。あらゆる形態の芸術と同じように、ここで 意図されるのは、鑑賞者が作品と物理的・心理的に結びつく感覚をより極めるような体験を提供するということです。この30年にわたるメディアアート制作に おいて、私はあらゆるタイプの実体験型作品の方法を探究しました。1987年に制作した[ヘヴンズ・ゲイトHEAVENS GATE]という作品はその意味で、ひとつの指標となりました。映像が投影された天井と、床に敷かれた巨大な鏡、つまり現実と映像というふたつの次元の 間、めまいを起こさんばかり<の状況に鑑賞者がおかれるという作品でした。デジタル化されたトロンプルイユ(だまし絵)として映し出されたビデオ映 像は、宇宙から地球を見下ろす荘厳な現代的視点が、天を見上げるという恍惚のバロック的視線へと反転する姿を示しました。
この[クーポラ]プロジェクトは、「欧州文化都市リール2004」プロジェクトのためにベルント・リンターマンと共に企画し、実体験型イメージおよび聴 覚型映画空間の芸術的探究へつながっているプロジェクトです。映像は空中に吊られた半球の投影スクリーンの中に映され、鑑賞者はその下に立ち、もしくは寝 そべって、上を見上げ、イメージに包み込まれます。この作品が焦点をあてたテーマは、都市リールのあらゆる建物、すべての種類の教会や公共施設、工場、 ショップ、住宅などの天井建築であり、その形態の美しさや、平凡な日常性、風化していく姿を賛美しています。古いものから新しいものまでの、あらゆる大き さと個性をもった200以上の建築の映像が映し出されました。
[クーポラ]のドームの内側には、映写された天井の構造が空間的に結びついて溶け込んでいき、このような馴染みある場所の美しさを再び見いだすような空 間的体験を生み出します。つまり、もともとの文脈から抽出されたこれら天井の映像は、このドームに空間的、形態的、絵的にうまく結びつくための方法が探ら れた結果、物語的な体験として再度位置付けられているのです。またこのドームでは、すべての文化においての天井建築が、宇宙的な理念に呼応して建設されて いるという、暗に込められた象徴的な一面も思い起こさせます。ドームは通常、天の屋根を象徴し、構造形態や、素材と色彩の選択においても、自然や精神的な ものに関連した何らかの意味を持つとされています。
今回、京都嵯峨芸術大学のために行った本プロジェクトの新しいバージョンの制作は、特にこの京都という都市が豊かな歴史と信仰、自然とが結びついた、他 に例を見ない美しい姿を持っていることを考えると、私たち制作者にとってはこの上ない機会となりました。これら多様な京都の天井の映像が[クーポラ]の ドームの中に取り入れられた時、それは瞑想的な体験をもたらすでしょう。空間と形態の結びつきが、精神と宇宙を連想する新しい物語を組み立てます。上部と 下部、外形と内容、物質と非物質という古典的な二重性は、映像の中の建築的な洞察の中で同時発生的に表現され、表意的かつ象徴的なものをほのめかす新しい レパートリーを展開しながら美的要素を形作っていきます。本展覧会では、新しいイグルー(かまくら)式の映写空間での上映を試みています。床に寝転がった 鑑賞者は実体験型の仮想空間の作品にすっぽりと包み込まれるでしょう。
ジェフリー・ショー