2012年夏 dOCUMENTA (13)

こんにちは、メディアアート非常勤講師の人長です。2012年9月6日・7日の二日間、ドイツカッセルで開催中の5年に1度の現代美術の祭典、第13回ドクメンタを鑑賞したレポートです。

今回の大きな会場はカッセル中央駅、フリデリチアヌム美術館、カールスアウエ公園の三つですが、他にも市内各地で作品が展示されていて2日間ではとても全てを見ることができません。
※地名・人名の日本語表記は正確でない場合があります。ご了承下さい。                                                                                   まずはフリデリチアヌム美術館 Friedrichsplatz から。この美術館は毎回メイン会場として使用されています。中央はヨーゼフ・ボイスがドクメンタ7から5年かけて行った都市緑化運動 "7000 Eichen"(7000本の樫の木)の1本目です。今回は前の広場に"occupy"(オキュパイ運動) のテントが占拠していました。dOccupyと書かれていました。


美術館に入ると"gentle breeze"「優しい風」が迎え入れてくれます。これはタイトルそのものでRyan Ganderの 作品です。展示室に入ると何も無い空間が広がります。(正確には壁際に他の作家の小さなインスタレーションが同居しています。)暑い日なら良かったのです が、この日は・・・寒い。しかし、他への展示室を通り過ぎる度に室内とは思えない髪を優しく漂わせる風に遭遇するのは楽しい体験でした。とても軽やかな作 品ですが、美術館裏に回ると巨大な送風機が取り付けてあり、大掛かりなプランであることを実感します。

Goshka Macuga, Of what is,that it is, of what is not, that is not1
ポーランド人作家、ゴシュカ・マキュガのタペストリー作品です。一見すると大きな写真に 見えますが、近づくと織物の質感が分かり、存在感が増します。中央奥にはアフガニスタン カーブルにあるダルラマン宮殿、ソ連の侵攻によって破壊され、その後の内戦では最前線に位置していました。その前に傍観者や横たわる人々などがデジタルコ ラージュされています。dOCUMENTA (13) 
 はカーブルにサテライト会場が設けられていて他にもアフガニスタンを取り上げた作品が見られました。

ドクメンタハーレ documenta-Halle ドクメンタのために1992年に建てられたホールです。8作家が展示。


Thomas Bayrle 動きがおもしろくてきれいです。


Nalini Malani, In Search of Vanished Blood
提灯みたいな円筒が回転しています。それを通して部屋の壁中にプロジェクションされた映像が混ざり合います。


Ottoneum会場 普段は自然史博物館です。11作家の展示でした。


Amar Kanwar, The Sovereign Forest


ノイエ ガレリー Neue Galerie 18人の作家の展示。ドイツの現代美術館には必ずといっていい程、常設でボイスの作品が展示されていました。


Geoffrey Garmer, Leaves of Grass

ここでの人気はこの作品。「Life」誌1935年から85年の半世紀分の切り抜きが長い廊下に年代順にコラージュされています。この部屋の入場に15分待ち。


そしてカールスアウエ公園 KarlsauePark 。50人以上の作家の作品が広大な敷地に点在しています。

地図を確認して、まとめろ〜!と叫びそうになりました。5年前の第12回ではオランジュリ前の広場に大きなテントが張られて作品が集まっていたのでした。気を取り直して歩 いていると遊具のような作品に遭遇したりします。天気もちょうど良くって楽しい。おもしろくないのは点在する小屋たち。入ってみると映像作品がスクリーン に投影されています。わざわざ小さな暗い部屋で長時間、映像作品を見る気持ちになる環境ではありません。なんで映像作品を見るためにここまで公園に不釣り 合いな小屋を作ってしまったんだろうと、疑問です。インスタレーション作品などは小屋の特性を活かしたものもありましたが、ツーバイフォーで作られた小屋自体があんまりかっこ良くない。ということでテンション、ダウン。中には良い作品もあったと思いますが時間もないので、(自分も映像作品作るのにも関わらず)一見するだけ、スルーするもの、が多くなってしまいました。もったいない。


そんな中にあっても、おもしろかったのは大竹伸朗さん、「モン・シェリ」です。遠くから歩いていると歌謡曲やら何やらと色々と聞こえてきま す。たどり着いた小屋の中にはコラージュや自動演奏のギターなどがごった返しています。物自体への楽しさと共にそれらが古ぼけた小屋の中にある風景への寂 しさもこみあげてきます。20mくらい??も上にある木の枝にもボートが何艘もひっかかっているのを見て、あんたやったよ、日本人作家としてやるべきこと やったよ、感動したよ、と勝手に上から目線の賛辞を送りたくなるのでした。鑑賞者も多かったです。テンション、アップ!


Anri Sala, Clocked Perspective アルバニア生まれの作家で、ビデオや写真作品でよく知られています。今回は公園の長い池の隅に設置された時計の作品。奥行きがある様に見えるデザインになっています。この作品は次の日に行ったオランジュリ(普 段は科学博物館)に常設展示されている望遠鏡を覗くと見えるようになっていました。望遠鏡が置いてある隣にはたくさんの時計が常設展示されています。望遠 鏡の中に見えるおぼろげな小さな時計を見た瞬間、昨日、間近で見た実際の大きな時計と鳴り響く秒針の音の記憶がよみがえって自分の中に何かがキュッと集 まったような感覚になるのでした。きっと時間と空間を体感した感覚なんだなと思うとわくわくします。


Anna Maria Maiolino, HERE & THERE

家中、粘土の造形物でいっぱいです。入場に30分待ちでした。


Massimo Bartolini, Untitled(Wave)

水面が動きます。ただそれだけなんだけど、地面掘って作っちゃっている状況がおもしろいです。


カッセル中央駅 Hauptbahnhof 中央駅と言っても昔の中央駅で、今は普通の大きめの駅で、使われなくなった建物などが博物館や貸しスペースになっています。30人くらいの展示されています。
 
ここでのお目当てはまず William Kentridge  "The Refusal of Time"です。25分上映で50人鑑賞の制限です。25分待ちで見ることができました。撮影禁止だったので画像はありませんが、検索するとなぜかいくつ かのビデオがヒットします。映像も音も展示も迫力満点。作品背景を先に読み込んでおくべきだったと反省です。


Janet Cardiff & George Bures Miller,  Alter Bahnhof VIdeo Walk

そして、もう一つのお目当ての作品。作品が再生されるiPodとヘッドフォンのセットを借りるのに50分!待ちでした。これでも行列は他の時間 帯に比べて少なめだったのです。再生時間は25分くらい。ビデオを見ながら駅の構内の同じ場所に進んでいきます。撮影された季節が違うので、雪が降った り、小さなドラマが起こったりする違いを楽しみながら進みます。圧巻なのは見事な録音です。実際に聞こえているのか再生された音なのか分からず、音がする 方を振り向いてしまったりします。公園にもCardiffの作品が展示されていたのですが、通り過ぎてしまい鑑賞できなかったので、大満足です。

 
 
2日間歩いて回って、身体も頭もつかれてしまいましたが、世界最大の現代美術の祭典はやはり最大の充実感を与えてくれました。「崩壊と再建」を テーマに掲げられた作品群は根底にある政治的背景、歴史や思想などを知ることで理解が深まるものが多く、美術が常に社会に深く関わり合う存在であることを 再認識させられました。
 
2012年9月16日

レポート